ぶどう膜とは、脈絡膜と毛様体、虹彩の三つをまとめて呼ぶ総称です。
これらは眼球全体を包み込むよう広がっています。
なにかしらの原因でこれらの組織に炎症が起こることをぶどう膜炎といいます。
ぶどう膜の特徴の第一は、眼球のほかの部分に比べて血管が多いということです。
このことは、ぶどう膜炎の特徴にも関係してきます。
つまり、炎症の原因がぶどう膜そのものにある場合だけでなく、血液の流れと関係して全身のほかの臓器に起こった炎症に伴って、ぶどう膜炎が起こるということです。
そもそも炎症とは、細菌の侵入などに対応してそれを排除し組織を修復するための反応のことで、血液中の白血球などの働きが深く関係しています。
ですから、血管が多いぶどう膜は、非常に炎症が起こりやすい場所なのです。
もう一つの特徴は、ぶどう膜は網膜とほぼ全面で接しているので、そこに炎症が起こると網膜に影響を与えやすいということです。
網膜は、瞳孔から入った光を感知する組織ですから、その組織にも炎症が波及すると視力が低下することもあります。
ぶどう膜炎の原因の約半数はベーチェット病、サルコイドーシス、原田病の三大ぶどう膜炎が占めています。
これらは難病ではありますが、さまざまな検査から診断がつけば治療方針を立てることができます。
全身の皮膚や粘膜に発作性の炎症が繰り返し起こる慢性の病気です。
原因はわかっていません。体内の異物を排除するときに集まってくる白血球の機能異常により、発作的に炎症を起こします。
ぶどう膜炎のほかに口内炎や外陰部の潰瘍、皮膚症状がよく現れます。
ベーチェットというトルコの皮膚科医が最初に報告した病気で、地中海沿岸東部から日本にかけての昔のシルクロード沿いに患者が多くみられています。
突然視力が低下するぶどう膜炎の発作を繰り返します。
発作そのものは短期間で治ることが多いのですが、発作を繰り返すたびに網膜や視神経が傷つき、視機能が少しずつ低下し、失明やそれに近い状態に至ることがあります。
眼科の難病の一つですが、近年、眼炎症発作の抑制効果が高い薬が使えるようになり、失明に至る頻度が徐々に低くなってきました。
繰り返す発作に可能な限り速やかに対処し、炎症を短期間で引かせることが大切です。
視力低下などの異常を感じたら、すぐに受診してください。
また、ふだんから薬をきちんと点眼・服用し、発作をなるべく減らすようにします。
個人差がありますが、発病から5年間ぐらいが発作の一番ひどい時期で、10年ぐらいたつとだいぶ落ち着いてきます。
発病後10年間、どれだけ視機能を低下させずに維持できるかが、予後にとって重要です。
この病気では眼以外にもからだの血管や神経、腸に炎症が起こることがあり、その場合は専門の治療が必要です。からだの不調(例えば頭痛や下痢など)はすぐに医師に伝えてください。
全身の臓器に肉芽腫という病巣ができる、原因の不明な慢性の病気です。
肉芽腫とは、細菌に侵されたり、炎症などで傷ついたりした部分を治すための免疫反応によってできてくる腫瘤のことです。
しかし、この肉芽腫そのものが炎症を引き起こしたり、消失したりせずに周囲の組織を線維化するので病気が発症します。
ぶどう膜炎のほか、皮膚やリンパ節、肺、心臓、脳、腎臓など、さまざまな臓器・部位に影響が現れます。
虹彩に肉芽腫を伴うぶどう膜炎を起こします。
炎症が軽くなったり強くなったりしながら慢性的に続きます。
飛蚊症がひどくなったり、黄斑浮腫をきたしたり、続発緑内障や併発白内障になるともあります。
中には0.1未満の高度な視力障害を伴うこともありますが、治療に反応することも多く、その場合にはよい視力を維持することができます。
慢性の病気なので気長に通院を続けることが大切です。炎症を抑えるステロイドという治療薬に反応することが多いです。
症状に変化がないからと安心して治療を中断すると、しばしば再発を招きます。
心臓や肺にできた肉芽腫の影響で、不整脈や呼吸機能の低下など、早急な治療が必要になるケースもあるので、定期的な検査が欠かせません。
自分の全身の正常な色素細胞を標的にする自己免疫疾患です。
自己免疫疾患とは、本来はからだに侵入する異物を排除してからだを守る免疫システムが、あやまって自分のからだの正常な組織を標的にして排除するように働いてしまう病気です。
色素細胞の多い部分に炎症が起こります。ぶどう膜炎と前後して、めまい・難聴・耳鳴りなどが現れた髄膜炎を併発して、そのために激しい頭痛が起こったりもします。
のちに、皮膚の一部が白くなったり、髪の毛が抜けたり白髪になったりします。
炎症が強いと両眼に網膜剥離が起こってきます。
この病気は、発病後の早い時期にしっかり治療して慢性化させないことが、とくに大切です。
治療開始が遅れたり、再発を繰り返す場合には高度の視力障害に至ることもあります。
発病直後は入院して集中的な治療を受けます。
慢性化した場合は、なるべく炎症がひどくならないように、根気よく治療を続けていきます。
三大ぶどう膜炎のほかにも、膠原病、関節炎、腸疾患、皮膚疾患、脳神経疾患、耳鼻科疾患、糖尿病、あるいは血液疾患や悪性腫瘍などがぶどう膜炎の原因になっていることもあります。
また、房水や硝子体液を検査して、初めてウイルスや細菌、その他の病原体の感染が原因であることがわかる場合もあります。
いろんな点から調べてみても、どうしても原因がわからない場合も2~3割あります。
ぶどう膜炎では、炎症の部位や程度、合併症によって、様々な眼の症状が現れます。
片方の眼だけに発病する場合と、もう一方の眼にも症状が現れる場合があります。
炎症によって集まった細胞や血液成分が硝子体に広がると、眼球内部が濁り、霧がかかったように見えたり、まぶしさを感じたり、視力が低下します。
また、炎症が網膜に及んだり網膜剥離が起こったりした場合や、続いて起こる白内障や緑内障によっても視力が低下します。
飛蚊症が発症することもあります。
虹彩や毛様体の炎症が強いときは、強膜や結膜が充血します。
炎症が起こると鈍い痛みを感じることがあります。
また、続いて起こる眼圧異常で違和感が出ることもあります。
ぶどう膜炎には白内障や緑内障、網膜剥離などの合併症が高い頻度で起こります。
合併症によって視機能が低下してしまうケースもあるので、その早期治療が大切です。
合併症のために手術が必要になったときも、専門医による手術を適切な時期に受けることで、眼の負担(手術による一時的な炎症の悪化)を強めることなく治療できます。
それによって視力が回復したり、視野異常の進行を最小限に抑えたりすることができます。
また、症状が落ち着いてくると、つい安心して薬の点眼・服用がいい加減になったり、通院を怠りがちになったります。
しかし、ぶどう膜炎は、定期的に受診することが非常に大切な病気です。
ぶどう膜炎は症状が治まっているようにみえても、からだの中では炎症を起こしやすくなっていたり、免疫システムに異常が起こっていたりすることがあります。
血液検査などでそれが確かめられれば、発作・再発の予防的な治療ができます。
視力や視野を奪う緑内障や網膜剥離などは、かなり進行するまで自覚症状がないことがあります。その発見・治療のために通院が欠かせません。
ぶどう膜炎の治療薬のなかには、注意が必要な副作用をもつ薬もあります。
副作用を抑えて同時に高い治療効果を得るために、検査結果をみながら薬の量を少しずつ調整する必要があります。
ぶどう膜炎では眼以外にもさまざまな症状が現れ、早急な治療が必要な場合もあります。専門医は患者さんの眼だけでなく、からだの異常にも気を配りながら診察しています。